レ・ミゼラブルの物語の中でのジャベールの存在は、主人公ジャンバルジャンとの対比としても欠かせないもので、準主人公と言っても過言ではありません。ジャベールは、最後自殺をするのですが、なぜ自殺したのでしょうか。
今回はそのジャベールが自殺をする時の歌詞について考えていきます。
[affi id=2]ジャベールの存在
ジャンバルジャンとジャベールは実はコインの表と裏だったのかもしれません。映画の話ではなくなりますが、日本のミュージカル(舞台)ではジャンバルジャンとジャベールはダブルキャストで、日替わりで交互に役者が役を演じていたのに、全然違和感がなかったことを思い出しました。
ジャベールとは
さて、ジャベールについて少しだけ説明しておきますね。彼は自分自身の正義を法律に基づいて忠実に生きた男なんです。彼にとっては法律が全てで、法律を犯した人間は悪の象徴でした。絶対に許せない存在です。
自分の存在意義を”法律”にしか当てはめることができなかった完璧主義者のジャベールは、ある意味ジャンバルジャンよりも”無情”な人生だったのかもしれません。
逆にジャンバルジャンは犯罪者(法律を犯した者)です。しかし、悪の象徴である法律違反のジャンバルジャンが、人助けをしているところをジャベールは何度も目にします。
ジャンバルジャンは犯罪者なのに人助けをするいい人で、最後はジャベールの命まで助けてくれます。そこで彼の信念が崩れてしまい、生きている意味そのもの、確実なものが失われてしまったのでしょう。
詳しくはこちらをどうぞ
自殺(Javert’s Suicide)歌詞
今まで自分が信じてきた価値観が根底から覆されてしまったジャベールが、セーヌ川に身を投げるときに歌う葛藤の歌です。
和訳
アイツはどんな悪魔だ
俺をとらえてまた離すとは
俺の運命を閉ざしたアイツ
過去を消し 俺を消したぞ
やれたぞ一突きのナイフ
復讐遂げられたのに獲物に借りを作ってどうして生きられるか
俺は法律なめるな
叩き返せ情けを
分かち合うものなどない
何もないバルジャンとジャベールどうしてゆるせよう 俺がアイツに
追いつめたアイツに 命まで救われた
俺を殺すのがアイツの権利
死ぬはずの俺が 地獄で生きている心が乱れる 信じていいのか
アイツの罪までゆるしていいか
疑いを知らぬ俺がなぜ迷う
心震えるのだ 俺の世界は消え失せた
天使か悪魔か アイツは
俺に命を与えて殺したひたすら堕ちる星さえ凍る
捕らえようもないむなしい世界
逃れたい早く
ジャンバルジャンの世界を
俺にはゆく場所も
たどる道もない
ジャベールの自殺とジャンバルジャンの独白
自殺の前に歌う「ジャベールの自殺」は、ジャンバルジャンの「独白」と同じメロディで、歌詞もそれぞれの考えを対比させているように書かれているんですよ。
ジャンバルジャンの「独白」では、ミリエル司教からの思いがけない愛情によって、彼のこれからの自分の生き方について考え、自分の良心の葛藤を歌い、これから自分は変わっていくのだと決心します。
一方ジャベールの「自殺」では、執拗に追い詰めてきたジャンバルジャンに殺されるであろうと思っていたところで、思いもよらず生かされるということになり、今まで信じてきた自分の信念と向き合うことになります。これはジャベール自身の「独白」なんですね。
それぞれの光と影(葛藤)
引用:Les Misérables CLIP #2 (2012) – Hugh Jackman, Russell Crowe Movie HD
それぞれの信じるところによって、二人の考え方に違いが出ています。
ジャベールは人の意見や関係に感情を動かされることなく完全なる正義というポリシーを貫き、自分自身を変えることができませんでした。
一方ジャンバルジャンは、その時々で過去の自分を否定して変わっていくことができたのですね。そこで光と影の違いが浮き彫りにされています。
ジャベールは絶対的に悪人だと思っていた「罪人ジャンバルジャン」が自分を許したことによって、自分が今まで信じてきた”確実なもの”がなくなってしまったのです。
ジャベールにしてみれば、ジャンバルジャンはどうして今まで何年も執拗に追い詰めてきた自分を、あのとき殺さなかったのだろう。自分を恨み、自分を殺して自分自身の自由を手に入れることができたのに、と思っていたのでしょう。
また彼に殺された方がよかったのに、殺されていれば自分の中にある「絶対的な公式」が崩されずに済んだのです。歌詞にもあります。
ジャベールにとっては、「命を救ってもらったことで、逆に死んだ」とありますね。
そうした彼の葛藤の中で彼は「ジャンバルジャンをもう一度捕まえること」と、もう一つは「自分自身がいなくなること」を考えたに違いありません。
「レ・ミゼラブル」の中では”本当の自分を取り戻す”という大きなテーマがありますが、ジャベールは激しい葛藤の中で結局、自分らしく、自分自身を変えて生きることができずに、セーヌ川に身を投げていってしまったのではないでしょうか。
同じメロディによって、ジャンバルジャンの独白とジャベールの自殺、二人の葛藤の違いが見事に表現されているんです。この「独白」と「自殺」、「光と影」の違いを作り出した作者って本当にスゴイですね。
ちなみにですがジャンバルジャンには、こんなにも葛藤して自殺をしたジャベールのことについてキチンと伝わらず「彼は私を捕まえていたのに放免したときから、気が狂っていたに違いない」ということで片付けられてしまいます。それを知ると少し残念なのは私だけでしょうか。
まとめ
自分が今まで生きてきた中での信念を変えられるか、それに固執してしまうのか、ジャンバルジャンとジャベールの考え方に、現代を生きている私たちにも共感できることがたくさんありましたね。
ジャベールの自殺については、ご覧になった皆さんで感じられることはさまざまだと思いますが、いろいろな視点からジャベールの死について感じて考えていただきたいと思います。